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へっくしゅん、小さなくしゃみを零した俺は鼻の下を指で擦った。
おっかしいな。 俺、幽霊じゃないのか?
なーんでくしゃみなんて生理現象が出るんだ?
風邪でも引いたか、それとも誰かが俺の噂をしているのか?
どっちにしろくしゃみをする幽霊なんて変な感じだ。
嗚呼、軽く背筋が寒い気もする。単に気の持ちようだとは思うけど。
二の腕を擦った俺は気持ちを切り替えて目前の校舎を見据える。
電話を終えた俺は一旦、秋本の家に帰った。そこで制服に着替えて此処に立っている。
なんで着替えに帰ったのか、それは俺がどうしても当時の服装に戻りたかったからだ。
1996年から2011年にやって来た当時の服装で残りの時間を過ごしたい。
……なーんて思うのは嘘ごめんちゃいで、単に念には念を入れて学ランになっただけだ。
というのも俺は今、自分の通っている中学校の前に佇んでいる(通っていたと言った方が適切かもしれないけど)。
秋本がいるでろう自分の母校にどうしても赴きたかったんだ。
彼女の帰りを待つ時間も惜しいほど、俺は時に切迫している。
後どれくらい居られるか分からないけど、行動はいつだって早い方がいい。
集団訓練でも五分前行動をしろって口酸っぱく言われてきたしな。
「ごめんなお前等。付き合ってもらって」
校舎から目を外し、ここまでついて来てもらった二人に礼を告げる。
俺を心配した島津と永戸が一緒に学校まで来てくれたんだ。
サボった永戸なんて気まずい場所極まりないのに、此処までついて来てくれる。
それは一理、俺の真実を知りたいから、も入っていたことだろう。
未だに信じられないような面持ちで俺を見やってくる二人は、「見えているよな」「幽霊って感じじゃないよね」と人を指差した。
そりゃお前らには見えているだろうさ。お前らには。
でも久野には見えていなかったし、大通りを歩いた際、通行人は俺に目を向けなかった。
わざと人にぶつかったりして俺が見えるかどうか試してみたんだけど、相手に衝撃が伝わるだけで特定の人物以外には見えないようだ。
これじゃあ幽霊というより、透明人間にでもなった気分。いやな現実だ。
昔、透明人間になれたら悪戯し放題だとか憧れを抱いたけど、実際身の上に降りかかるとそんな気分にはなれない。
状況が状況だからかもしれないけどさ。
特定の人物達にもいつまで姿が見えてくれるか……島津や永戸には見えていた俺の姿、秋本や遠藤、そしてまだ再会していない“彼等”に姿が見えてくれたらと祈るばかりだ。