1996年の某月某日金曜。
曇りのうち晴れ。
  
 

その日、俺、坂本健は自暴自棄に似た感情を抱いていた。
 

ひとことで言えばそうだな、何もかもが嫌になっちまったってところだ。
 

今朝からツイてなかったんだ。

登校するまで親の大喧嘩を脇目に飯は食わないといけないし、学校に着いたら着いたで数学の宿題があったことを思い出すし、授業時間に忘れたことを素直に謝ったら二倍宿題を出されたし。

 
かと思えば昼休みの時間、俺がヘマしちまったせいで親友を怒らせて喧嘩しちまうわ。

極めつけに今日こそは…、と好きな女の子に気持ちを伝えようとしたら、バッドタイミングなことに隣のクラスの奴に告られているシーンを目撃。

俺が告白している時とは180度違った態度で、はにかんだ笑みを見せていたもんだから気分は地面にめり込む勢いだった。
 

そうか、俺の気持ち、超迷惑だったんだな。

 
じゃないと他人(ひと)にあんな表情、見せないだろ。

俺には一度だって見せてくれなかったぞ、あんな笑み。


粋がった悟りを開いてみるけど、わりと、嘘、結構悲しみに暮れた。

失恋ってほろ苦く、しょっぱいんだなぁっと落ち込んで下校。
 


取り敢えず、失恋は置いておいて、怒らせた親友をなんとかしないと慰めても貰えない。
 


傷心を引き摺ったまま帰宅した俺は詫びの品を贈ろうと、俺と親友がこよなく愛しているアーティストの限定版CDを手に取って鞄もそのままに外出。


その際、居間で母さんがばあちゃんの家に電話を掛けて「もう駄目なの私達」縋るように話していたもんだから、ああ、もう駄目なんだ、父さんと母さん。


と、他人事のように思ったり思わなかったり。


両親が駄目になったら兄貴と俺、どうなるんだろう。


少なくともどっちとも兄貴は引き取りたいだろうな。

成績良いし、気が利くし、家事も快く引き受けるし。