リゾートあたりで隠居生活とは、少なからずそそるが、隣にこの男がいると考えると地獄色に見えた。


「さあ、ミナナ!早速、さらさらっと婚姻届にサインしよう。はい、これペンね」


渡されたペンを指先で撫でた。


――この場合、嫌といっても勝手に偽造するんだろうなぁ。

職業柄、彼は偽造捏造は得意であることもミナナは知っていた。


「私、国籍がありませんよ」


「……」


盲点だったと言わんばかりに彼の笑みが固まった。


結婚とは言わば、形式だ。


登録されている名前同士を夫妻と認定するのだが、存外、ミナナは住所不定どころか国籍がなく、役所には“存在していないこと”になっている。