私の腕を掴んでいるのは本田さんだ。


「お疲れ様です。あの……、腕、離してもらえませんか?」


私は本田さんの顔を見ないまま言う。


だって……


本田さんの顔を見ると、“好き”って気持ちが溢れ出しそうだから。


でも、私は“からかわれている”だけ。


本田さんには他に女がいる。


だから、あの言葉を素直に受け取っちゃダメ。


だから……


好きになってはいけない。


私は、本田さんの手を振り払おうとする。


だけど、本田さんは私の腕をしっかりと掴んでいて、振り払う事が出来ない。


「嫌だ、離さない」


「離さないって……。私……」


“帰りたいんですけど”


そう言おうとした瞬間、私は背中から温もりを感じる。


本田さんは、私を後ろからそっと抱きしめていた。