志高も那智も何も言わない。



沈黙が部屋を支配する。




那智は仕方ないと遠くを見ると、志高に笑う。見ている者が泣きたくなるような、笑顔で・・・。




「仰せのままに・・・」



最近この言葉ばかり言っている気がする。



それにしても自分が正妃かと思うと・・・やっていく自信がない。



「たくさんの事を覚えなければいけないですね・・・全く迷惑な事しか持ってこない王にはこりごりですわ」



ふふふと笑う那智を思わず志高は抱きしめる。



突然訪れた温もりに那智は目を見張る。




「本当にすまない・・・それでも・・・ありがとう」



頼めば那智は断らないと分かっていた。



けれどそれは今よりも命の危険が高くなることと、王と共にこの国を背負う事の覚悟も必要になる。



正妃とは王がいない時に国を背負うもの・・・。王が死んだ後もこの場所から去ることはできない。




王が死ねば、王の姫達は好きな道が選べる。


故郷に帰る者もいれば、後宮で生きる者。王都で暮らす者もいる。しかし正妃にはそれができない。



この場所を一番嫌う那智が、この場所から一生離れられない・・・なんとも皮肉なものだ。