今有栖川の家で那智を殺せと表だっていうものはいないだろう。



那智を殺すより生かしておいた方が使い道になることを彼らは知っているのだ。




生まれてから15年。那智は有栖川家の姫を生きるために演じてきた。その成果か那智はどの姫よりも姫らしい。



そんな那智は有栖川の家にとって立派な道具になった。




そんな那智が本当の姿を見せられるのはごくわずかな人の前だけ。



その人たちもいまはここにいない。有栖川の父母に兄3人、そして誰よりも大切な自分の片割れ柚那が元気に笑っていてくれるなら、こんな場所でも頑張れる気がするのだ。




「柚那達は元気かしらね・・・」




思わず口に出た言葉は那智が思っていた以上にとても小さく、誰の耳にも届かない。



「那智姫様。全て終わりましたよ」



思いのほか静かな那智を心配しつつ美沙が声をかけると、那智はいつもの笑顔に戻った。



「ありがとう。念のため有栖川家に送っておいてちょうだい。何か分かるかもしれませんからね」




足がつくような事はおそらくしていないだろうが、何か分かれば儲けもんと那智は美沙に頼む。




「それが終わったら今日は下がってくれて大丈夫よ。明日もいつも通りに。お休みなさい」




那智の言葉に美沙はかしこまりましたと言うと下がっていった。



誰もいなくなった部屋で那智は出会った日の王を思い返していた。