「それは言い過ぎですよ?妾に楽士程の腕前はないですわ」




確かに楽士たち程の腕前は那智にはない。しかし心がこもっていた。


その人に幸せでいてほしい。この人に笑っていてほしい。




自分の為だけに歌われる歌に敵う者はない。




「私がそう思ったのだから、それで良いのだ」



いつだって偉そうな男志高は、素直に褒め言葉が言えない。



少しの時間でその事に那智は気付いていた。




「はいはい。それは何よりもの褒め言葉ですわ」




素直になれない志高に嫌味っぽく笑うだけだった。



「まだ何か御所望ですか?」



子供をあやす様に言う那智に多少馬鹿にされた感を感じつつも、志高は考える。




(このまま聞いているのも楽しいが・・・・ずっと聞いていてはまたいらぬ噂もたつだろう・・・)



主に床を共にしていないという噂が・・・。それはそれでめんどくさい事になる。




「今日はもう良い。寝る」



単語しか言わない志高に「子供か!」と突っ込みつつ、那智は仕方ないと溜息をつく。



「それでは我が主人の為に寝る支度をしますね」




那智は考える。当たり前だが、この部屋には寝る場所は一つしかない。