「何を気にすることがある。私が望んだんだ。弾け。歌え」



確かに後宮は王の家と言ってもいいだろう。


しかし日々の勤めに疲れ寝ている者もいる場所で弾いても良いのかと悩む那智。




そんな那智に志高は無理やり琴を持ってきた。




他の姫の部屋と違い、那智の部屋はさっぱりとしている。



琴は部屋に入り、すぐ目のつく場所に置いてあった。



「ほら。弾け」



さっきから、弾けと歌えしか聞いていない気がする。強引な志高に仕方ないと、那智は琴の前に座る。



「何か聞きたい曲はありますか?言っておきますが、お抱えの楽士達ほど上手くはないですよ」




期待しないで下さいよと小さく笑う。



「曲はあまり知らない。だから・・・那智華の好きな曲を弾け。そして歌え」



子供の様に言い放つ志高に、まるで母親の気分だと思いながらも、那智は柚那と共に初めて覚えた曲を奏で始める。




それは昔から伝わる陽の国の歌。今でいう国歌みたいなものだった。




陽の国に生まれた者皆に、苦しみ、悲しみが訪れることなく、いつも笑顔で過ごせますようにという喜びの歌。



昔から那智や柚那が泣くと母が歌ってくれたものだ。



涙が枯れ、悲しむ事に疲れたら、上を向き太陽を見上げなさい。下に幸せは落ちていない。上を向き始めて幸せに気付くのだ。



その歌詞に何度那智は励まされたか分からない。





泣きながら太陽を見上げ、母や兄によく笑われた事もある。