「これくらいなら障りない。しかし皆暇なのだな・・・王の訪れもない妾の事など気にせぬともよいものを」
愉快そうに笑う那智に、美沙は頭を悩ませる。
自分の主人であるこの那智姫様は、見目麗しく、囁く声は小鳥のさえずりの様に美しいのだ。囁く言葉は別として・・・
「それとこれとは別でございます。那智姫様に万が一のことがあれば私は柚那姫様に顔向けできません。お願いですからお手を触れにならないで下さいませ」
美沙が今にも泣きそうな顔で那智を見る。苦笑しながらも那智は送られてきた贈り物を美沙に渡した。
美沙が作業するのを眺めながら、那智は遠い地にいる双子の片割れ柚那と家族を思っていた。
有栖川柚那。那智の双子の姉であり、有栖川家の長姫である。二人が生まれた時、那智は一度殺されかけている。
双子は忌み子というこの時代、長姫の柚那の誕生は大層喜ばれたが、那智がいらない子だった。
このまま生かせばいつか禍を呼ぶ子になると恐れた有栖川の親類は那智を殺せと当主である父に言った。
生かすか殺すか、馬鹿な親類による馬鹿な会議が3日3晩続いたという。