命令しなれている男の優しさを一切含まない言葉。



気の弱い女なら泣いているか、逃げ出しているだろう。




たとえ気が弱くなくても怖くて目を合わせようとはせずおびえるであろう言葉。




けれども那智はそのどちらにも入らなかった。美しく整った顔によく似合う赤い紅を塗った唇が弧を描く。




「はて?どちら様でありますか?名も知らぬお方に見せる体はございませぬよ?」




言外に名を名乗れ馬鹿王が・・・という声が聞こえてきそうな那智の微笑みに、王の顔が変わる。




「やんごとなき姫は姿は美しいが、教養は持ち合わせてはいないようだな。この後宮に入ってこれる人物と言えば王くらいだろう」



それは自分が王だと告げているようなものなのだが、那智には通じない。





「ほほほ。面白いことをお言いになるお方ですね。王ではなく下賤な者かもしれぬし、王だという確証も現時点ではありませぬ。王の名を騙る不届き者かもしれぬ者に言われた言葉をほいほい聞いては・・・やんごとなき姫の名が汚れます」






今まで後宮に入ってきた姫は王が現れればまず礼を取り決して顔をあげない。



そして入って着た者を王ではないとは疑わないだろう。しかしこの那智は違った。





名を名乗らぬ者を初めから王とは信用しないし、見知らぬ者が自分の部屋に入って着た以上追い出す権利があると思っている。