那智の父も母も・・・何も言えなかった。



小さい末姫と思っていた姫は・・・・いつの間にか大きくなり、自分で人生を切り開くまでになったのだ。



母が大きな声で泣きながら、那智を抱きしめる。



「那智・・・那智・・・・・死なないで・・・生きて・・・」



帰ってきなさいとは言えない。



那智は正妃として、王の元に帰るのだ。




迷っていた父は・・・王から届いた文を那智に見せる。



「主上は・・・お前が帰ってくることを望んどらんよ」



見せた所で、那智の気持ちは変わらないと分かっているのに・・・それでも僅かな可能性にかけて文を渡す。




渡された文からは・・・志高の好きだった香の香りがする。



【有栖川当主



那智は絶対に後宮に帰すな


守ってやってくれ】




柚那に送ったように、用件しか書かれていない簡潔な文。



しかしそれが志高の想いを伝えている。