言葉が切れた時・・・柚那は那智を自分の方に向かせる。


「ねぇ・・・・那智?」


後宮に入った時、何度この声が聴きたいと思ったか・・・。



「龍兄様の事は・・・・どう思っているの?」



志高に抱かれながら龍の名を呼び続けたあの日・・・・けれどこちらに帰って来てからは龍の事を思い出す事もなかった。



「・・・・好きだよ・・・」


消えそうな声で那智は呟く。



それが昔とは違う事に・・・・那智自身は気付いていない。



「じゃぁ・・・・龍兄様と逃げる?」



王が逃げろと言ってくれたように・・・。



那智を帰すと決めた時・・・・王は那智を自由にする道を選んだのだ。



自分が壊してしまった那智を・・・自分の元から自由にする。



那智の幸せを願って・・・・。



会った事もない王に、柚那は少しだけ心が痛む。