投げつけられた簪を拾いながら、那智は悲しそうに簪を見る。



「この簪がどうかした?」


柚那が簪を見つめる那智に聞けば・・・那智は首を振るだけだ。



那智が志高から逃げろと言われたあの日・・・・那智の頭に着いていた正妃の証の簪を抜いて行ったのだ。



正妃にはならなくて良い。



だから逃げろ・・・そう伝えようとしてくれたのだ。




志高がやった事を・・・那智は怒ってはいなかった。




ただ分からなかったのだ。



志高が何故自分をあんな風に抱いたのか・・・志高が那智を抱く間、志高はずっと那智の名を呼んでいた。



今思えば・・・とても切なそうに。



那智が何とも言えない顔をしていれば、柚那の声が優しくかかる。



「何か・・・心ここにあらずって感じだね?」