「でも・・・・妾は龍を殺したくはない・・・・龍がそれで良いと言ってくれても・・妾は嫌じゃ。生きて・・・生きて・・・幸せになって欲しい」


いつだって自分の幸せを願ってくれた龍。


今度は那智が龍の幸せを願う番だった。



龍が那智を苦しいくらいに抱きしめる。


「嫌だ・・・那智がいないのに・・・幸せにはなれない・・・。だから・・・」




龍がもう一度一緒に行こうと言おうとした時・・・・



美沙が慌てて那智の部屋に入って来た。



いつもなら声をかけてから入る美沙が、今はそんな事も忘れて声を荒げる。



「那智姫様・・・・主上がお見えになっています」



那智は血の気が引く音を初めて聞いた。



龍の方に向き直ると、急いで窓から追い出す。



「来てくれて嬉しかった・・・でも妾は行けぬ・・・幸せに」



それが那智が龍に言える精一杯の言葉だった。



龍は那智の手を一回握ると、「また絶対に迎えに来るから」と言って去っていく。




その言葉が那智には何よりも辛かった。