「こっちを向いて那智?」


そう言って那智を龍は自分の方に向かせる。


那智はそんな龍を人形のように見つめている。


「龍・・・・妾はここから出れない。だから・・・・」


龍だけでも幸せになってほしい。


隣に私はいなくても・・・・龍が幸せでいてほしい。


那智の願いはそれだけだった。


「那智・・・今なら間に合う。ここを出て・・・どこか遠くで二人で暮らそう」



普段の龍なら、それがいかに無理かを理解していただろう。



有栖川の姫であり、正妃である自分を・・・この国は逃がしてはくれない。



見つけられて連れ戻されるか、刺客に見つかり殺されるかのどっちかだ。



「龍・・・それが難しい事は分かっているでしょ?妾は行けぬよ・・・・」



ここから出られない。



どれだけ龍と行きたくても・・・・それは龍の為にできなかった。