志高が何とも言えない顔で那智を眺めていれば、那智も何とも言えない顔で龍を見ていた。



「那智華に無理はさせれぬからな・・・・下がれ」



その言葉しか志高は言う事ができなかった。



このまま那智を残しておいても、龍を見続けるだけで・・・志高を見てはくれないだろう。



こんなに近くにいるはずなのに・・・那智の心は遠かった。



「では・・・申し訳ありませんが・・・私はこれで失礼いたします」



那智が立ち上がり去ろうとした時・・・那智の背中に龍の言葉がかかる。



「那智・・・姫様・・・・梅はまだ咲いておりますか?」



梅は・・・まだ・・・



それは那智にだけ分かる言葉・・・。




昔から二人の逢瀬は梅の木の下が多かった為、梅の木は二人の愛の木だねと那智が冗談で言っていた。




それを龍はとても喜び、梅の木の下で何回も愛を誓ってくれたのだ。