彼の王を少しだけ哀れだと思う。同じように忌み子と言われながらも、那智にはまだ選べる自由が多少なりともあった。




けれども彼の王にそれはなかっただろう。いつだって兄君の代わりの彼は、彼として生きれた時間はあったのだろうか。




那智は15年間を家族やほんの少しの愛する人の前では那智として生きられた。




だから有栖川の姫としてこの後宮に嫁いでこれたのだ。





この先の人生を有栖川那智として生きたとしても那智は那智だった時の事を忘れない。




思い出は生きる勇気をくれるのだ。







それがない彼の王は果たして自分を忘れずにいられるのだろうか・・・後宮にきて以来あらゆる噂を耳にする王を那智はもう一度思い浮かべた。