帰り際、見送ろうともしないでソファーでくつろぐ彼を振り返って、勢い良く彼の上にダイブして顔の横に手を置き、グイッと顔を近づけた。
さすがに目をまん丸くさせている彼に、あたしはニンマリと笑った。
『絶対あなたにキスをさせてみせる!』
そう宣言をすると、素早く彼の家から出た。
まだ静かな町の真ん中で、携帯を取り出し呼び出し音を爽やかな顔で聞き、はい?とゆう少し寝ぼけた声に早口で言った。
『もう、あなたと会わない。
好きな人が出来たの。
さようなら』
ピッ、と相手の返事を待つ前に通話を切った。
『あとは……』
そう小さく呟きながら、彼女のピンヒールの音が道路に響いた。