「おはょー♪」

いつものように教室に入っていく。

やっぱ
いつものようにみんなから返事が返ってきた。

けど、ひとつだけ違うのが
ある人と少し気まずいということ。

そのある人と目があった。

そのある人―嶺は口パクで「おはよ♪」と言って笑顔で笑った。

蒼空も小さく「おはょ」と呟いた。

隣の席の嶺には、その小さな呟きも聞こえた。

嶺は一瞬、悲しい顔をしてからゥンゥンと笑顔で頷いていた。

この行動はいつもならあり得ないことだった。
いつもなら蒼空も嶺も無駄にテンションが高く、絡んでいる。

けど
誰もその違いには気づかなかった。

「蒼空!」

優輝が蒼空が荷物をしまい終わると同時に手を引いた。

蒼空が少しよろめいた。

「ぁ、そうだった!」

それを素早く優輝が支える。

体勢を整えた蒼空は、まだ支えている優輝を「もういいから。」と言うように軽くトンッとやった。

「大丈夫か?足」
「ぅん。多分、大丈夫だよ」
「多分かよ!」
「ぅん。多分だよー」

少しの間、
なんだかコントのような感じの会話が続いた。

「ぁ、そう言えば」

突然、優輝が本題を思い出したような素振りをした。

「ん?なに?」
「蒼空さ、帰りどうすんの?蒼空の母さんも陽希さんも仕事だろ?奏史と帰んの?」

正直、
考えてなかった。

あの後、いろいろあったから…。

「んー、考えてなかった…奏兄は一人で帰りたいだろうし…」

やばい!
何にも思い付かない!

ほんとどうしよう?


「じゃあ、俺と帰る?」

優輝がなんだか照れ臭そうに言った。

どうしよ。

優輝部活あるだろうし…

「優輝は部活だろ?」

突然、嶺が入ってきた。

さっきまではずっと机に伏せて寝てたはずだった。

「そうだけどさ…って、なんで嶺が入ってくんだよ!」

優輝は、顔を真っ赤にして嶺に言った。

「しらーん。だって、隣で話してるから。」

「ベー」とでもやるような感じで嶺が優輝に返した。


今すぐにでもその場から離れたかった。

だから…

「ぁ、優輝。ごめん。南んとこ行かなきゃなんだった!」

と言った。

蒼空が手を合わして「ごめん!」とやると、

「りょーかい!」

優輝が蒼空にピースをして言う。

「ありがとっ!」

そう言って蒼空は急いで教室を出ていった。