その後シンは何かを考えるように無言になった。私はもう急かしたりしない。

もう間違えたくないから。


『俺の始発はね、14年前の午前6時2分。それからずっと走り続けてきたけどもうすぐ終着駅に到着するよ』


気付くと私は手すりを強く握りしめていた。


シンはいつだって生きる事を諦めない。だからいつも前向きなんだって思ってた。

でもきっと違う。

シンの中で前から死への覚悟はあったんだ。


『俺はあの電車みたいに色んな人を乗せて走れなかったよ。ずっと病院暮らしだったから。でもマイの電車にはたくさんの人が乗ってるんだろうね』


それは出会いの数を言ってるの?

確かに私は保育園も小学校も中学校も高校だって通ってたよ。シンの言う通りたくさんの人に出会ってきた。

────でも、


『………満員電車なんて窮屈なだけでしょ。私はすいてる方が好きだよ』


こんな事しか言ってあげられないけど、100人の出会いがあったとしても私は1人のシンと出会う事を求める。

大勢なんていらない。付き合いが長いとか短いとか関係ない。

たった1人でも大切だって思える人に出逢えたらそれでいいじゃない。

それぐらいシンは私にとって特別だから。



『ねぇ、シンの電車にも私は乗ってる?』


私は自分の記憶よりも誰かの記憶に残りたい。


『乗ってるよ。マイが最後の乗客かもしれないね』


『やめてよ、私を最後なんかにしないで。シンはこれから病気を治して生きて、それでたくさんの人に出会えばいい。そうでしょ?』