その日の夜、302号室の明かりが消える事はなかった。面会時間は過ぎているけどシンのお母さんはずっと手を握ったまま。
私も今日だけは就寝時間を過ぎて出歩いても怒られる事はなく、シンの部屋に行っては戻りの繰り返し。
シンの荒々しい呼吸は静かになったけど、胸が上下に動いてるのを見て私はホッとしてる。
このまま何事もなかったかのようにシンが目を覚ますんじゃないかって今でも思ってるよ。
でもね、生まれてから死ぬまでに心臓が鼓動する回数は決まってるんだって。
それならシンはあと何回?
『………シン、シン』
シンのお母さんはずっと名前を呼び続けている。
私はシンの病室から少し離れてそのまま廊下のすみに座った。いつもなら怖いと思う夜の廊下は皮肉にも302号室の光りで明るい。
──────ねぇ、シン。
シンはいつも私に頑張れって言わない。
いつも頑張ろうねって言ってくれた。
それがどんなに嬉しくてどんなに励まされたかシンは知ってる?
だからね、
私も頑張れって言わない。
頑張らなくてもいいよ、なんて言わない。
頑張ったねって誉めたりもしない。
ねぇ、シン。まだ一緒に頑張ろう。
1分でも1秒でも長く私はあなたといたい。
少しでも、ほんの少しでもいいから
シンと同じ世界で生きていたいよ。