病院から1歩外に出ると朝の匂いがして大地に足を着けるのは久しぶりの事。
湿った土、鳥のさえずり。赤から青に変わる信号機に24時間営業のコンビニ。
入院する前はなんて事ない景色がとても新鮮で懐かしい。
『シン、寒くない?』
まだ太陽が出てないせいか、気温はひんやりとしている。
『なんか、なんかさ、やばい。もう泣きそうだよ』
外を歩いてるだけなのにシンの目には光るものがあった。
それもそのはず、シンにとって外の世界は屋上で眺めるだけのものだったから。
『泣くの早すぎ。そんなんじゃ電車に乗れないよ?』
『えっ、電車に乗れるの?』
ここから海がある場所までは2時間30分かかる。電車を3本乗り継がなきゃいけないけど、
シンがずっと憧れていた電車に乗せてあげられる。
だって電車は見るものじゃなく乗るものでしょ?
病院から一番近い駅に着いて私は切符を2枚買った。電車の乗り継ぎもそのルートも何回も復習したから大丈夫。
『切符ってどこに入れるの?』
シンは電車に乗った事がなければ駅の改札を通るのだって初めてだ。
シンが興味があるもの、知らないものは全部教えてあげる。そのビー玉みたいにキラキラした目を見ると私まで嬉しくなるから。
『───1番線に上り電車がまいります。白線の内側からはみ出さないようご注意下さい』
駅のホームに流れるアナウンス。
始発電車だからまだ人影はなく待っているのも私達だけだった。