気がつけば僕は大声をあげて泣いていて、偶然部屋の前を通った先輩が介抱してくれてから、落ち着く間もないまま家路についた。
手紙がぐるぐると頭の中をめぐり、一晩泣き明かした。あれはフィクションであり、普段のユキとの口調とは全く違ったし、しかし細々したことの演出が上手いユキらしい文体で、かえって生々しかった。
まさかあんな文章を残しているとは思わず、僕は後悔した。突然にいなくなったはずのユキが、自分の死を覚悟していたように思われた。錯覚だとわかっていても、側についてやれなかった自分を責めていた。
僕はすっかり混乱していたが、少しだけ整理がついたこともある。手紙の中でユキの死を確実に理解させられたし、ユキがどんなことを思って死んだのか分かったような気がした。
でも、ユキがいない今、どうやってユキに寄り添えばいいんだ?ユキの手を握るにはどうすれば?
ユキの声も姿も、本物を直接感じることは二度と出来ない。残ったのは頼りない、記憶と記録だけだった。今となっては、僕はユキのワガママをひとつも聞けない。
唯一あるとすれば、これからもユキを永遠に愛し続けることだ。しかし、これはユキの願いというより、僕自身の願いだった。
喪失感は急激に僕の心に広がり、巨大な穴を開けた。僕はユキといた時間に浸りたくて、記憶をかき集めた。ユキは僕の前でだけ、様々な表情を見せてくれた。初めてのセックスは特に大きな出来事で、あれを境に二人の距離は大きく縮み、誰も知らないユキを見ることができるようになったのだ。僕は思い出しながら、激しく自慰した。