その後の記憶はほとんどない。ユキの妹コハルが棺の傍らでわんわん泣き叫ぶ声だけが、生々しく耳にこびりついている。葬儀の直後に控えていた試験は手につかず、ユキのいない夏はあっという間に終わり、また学校が始まった。それでも僕はまだ、現実を受け入れられずにいた。ユキは死んだ、と繰り返し呟いたが、猛烈にユキにのそばへ行きたい衝動に駆られ、早く会いに行かなきゃ、と焦るばかりだった。僕の頭はユキの死を全く理解していなかった。
サークルのロッカーに残っていたユキの私物を片付けることになった。勝手にロッカーを開けるのは非常にためらわれたが、興味が上回ってしまい、どきどきしながらコッソリと開けた。
きちんと整頓された教科書とプリント類。僕はなにも考えず片付けるべきだったが、好奇心を押さえることが出来なかった。
プリントをパラパラとめくる。筆圧が薄いが、均整の取れた形の文字だ。意外に正当率が高い。真ん中を過ぎた辺りに、ワープロ打ちのレポートが出てきた。その上部に、

「課題:余命3ヶ月を宣告されたとします。あなたの一番大切な人に、別れの手紙を書きなさい」

と書かれていた。
心臓がキュッと痛みながら、止まった。ユキは福祉の勉強をしていたので、末期がんなどの治療についての授業を取っていた。おそらくその授業内小レポートだろう。そこにはこう書かれていた。