私は突き飛ばされ地面に体を打ち付けた



激痛だったが瞬間に気づいた



私を突き飛ばしたのはトラックではないことに



「な…なお?」



私を突き飛ばしたのは



彼だった



彼は血だらけで横たわっていた



「直ぉ!!」



足を引きずって彼のところまで行った



「……さ………わ…ゲホッ…」



「直!すぐ救急車をよぶか…」



彼の血で濡れた手が私の頬に触れた



「……つき…ば…って……ご…め…」



――突き飛ばしてごめん



「しゃべらないで!じっとしてて…」



涙が次々と溢れ出してきた



「……さ……わ……す…きだ…よ…」



彼は次の瞬間動かなくなった






直が…そんなの嫌!!



「嫌…嫌ぁ!!」



直は返事をしてくれない



「直!!直ぉ!!」



私は泣いた



ただ、泣いていた



『ねぇ、私は誰かを笑顔にするために生まれてきたのかな』



昔の私が問いかけてきた



『私が苦しめばとあいつらもお父さんも笑っていたから』



あぁ…



私は所詮苦しむ役だったんだ…








愛は人を苦しめ



苦しみで人は満たされる






病院には変な空気で満ちていた



『手術中』のランプが点滅している



希望なんてない



直は死んでしまうんだ



ランプが消えて中から医者が出てきた



「すいません…努力はしましたが…」



あぁ…



やっぱり死んじゃうんだ



私は、幸せになれないんだ






「…女帝!」



「青森?」



どうしてここに…



「大丈夫ですか!?」



私は頷いた



「…でも、直が…!」



「…清水がか」



私は泣いていた



人前では泣かないようにしていたのに



「…そうよ……私のせいで死んだのよ、…私がっ…殺したの…」



青森は何も言わずに私を抱きしめた



「……ちょっ…青森……」



「…めなのかよ」



え?



「…俺じゃ、駄目なのかよ」






「俺…お前が好きなんだよ…」



青森が腕に力を入れた



でも…私の心は変わらない



「……ごめんなさい」



「女帝…」



「私は…直の事で頭がいっぱいなの…」



青森が私のことを好きだったのは知っている



だけど私は青森にそんな思いはない



本当にごめんなさい



「私は、あなたを愛せないわ」






三谷淳SIDE



風呂から上がって俺はテレビをつけた



別にドラマに興味はなかったがなにもやることがない



ベタなラブシーンを見ていると急に画面が切り替わった



『臨時ニュースです』



なにかあったのか?



そう思うと電話が鳴った



俺の姉、三谷彩夏(ミタニサヤカ)が電話を出るとすぐに俺に声をかけた



「淳~!南世ってコから電話」



南世だと!!??



「彼女?」



「うるせえ!!」



俺は彩夏から電話を奪った



「な…南世どうしたんだ?」



『三谷くん…テレビ、見た?』



「今ついてるけど…」



泣きそうな声で南世は言った



『清水くんが事故で死んだって…』



「……は?」






清水ってあの清水だよな…



「マジかよ…」



これじゃ…



誰が神童様を守るんだよ



『あの…ね、神童様も一緒にいたって…』



「そうか…災難だったな」



『明日お通夜あるって、先生から来てた』



俺はケータイに手を伸ばした



確かに学校からメールが来てた



「これ…現実なんだよな」



『うん…』



清水はきっと神童様を守るために死んだんだよな…



俺…最低な奴かも



一瞬、嬉しくなってしまった






函南真弓SIDE



「…嘘よね?」



アタシはケータイに向かって言った



「直が死んだなんてうそ嘘よね、嘘よ。嘘に決まっているわ!」



壁にケータイを投げつけうつぶせになった



「…直は生きてる……」



アタシは自分に言いつけた



なのに…



実際目で見ていないのに



もう、直が死んでいるって感じてしまう



ああ、



アタシは不幸だ



自分の知らないうちに大切なモノがなくなってしまうんだから