俺は教室につくと荒竹と別れた
荒竹とは違うクラスだったから
神童様の席はちょうどクラスの中心だった
たくさんの男が彼女をちら見してたが
彼女は気づかないふりして本を読んでいた
あれが女帝の振る舞いか…
神童様はいつも何を考えてるのだろう
「……!!」
目が合った!?
んなわけないか
「三谷くん?顔赤いよ?」
「は!!!!!」
話かけてきたのは隣の席の南世華蓮(ナゼカレン)
クラスでは大人しくてあまり目立たない
「なんでもねぇよ」
俺は授業の支度をしながら言った
俺が神童様を愛せない理由は
彼女が女帝だからだ
昼休み――
「おい、神童いるか?」
F組の函南真弓(カンナミマユミ)だ
「なんの用ですか?」
彼女は相変わらず妖艶な笑みを浮かべる
「お前のせいであたしフラれたんだから女帝と言われるほどの女を見に来たんだ」
「あら、見るだけならもう用は終わりね……目障りだから消え去りなさい」
一瞬教室がざわめいた
「ざけんな!!!てめぇ!!!」
函南が神童様に殴りかかろうとした
「青森!清水!」
彼女がそう言うと二人の男子が函南を押さえ付けた
青森深夜(アオモリシンヤ)
清水直(シミズナオ)
『女帝』に遣える召使的な奴ら
「……なんだてめぇ!離せ!!」
「青森、清水その女を粛正してしまいなさい」
その言葉で俺も青ざめた
「さぁ!函南!女帝に謝れ!」
「跪くのだ!!」
今行われているのは
『粛正』という名の暴力
「いったぁ…いやぁ!!やめて!!」
函南は泣き叫び助けを求めた
「…三谷くん」
南世も怯えた
「…とめられねぇよ」
俺は顔を背けた
そんな函南にも助けがきた
「青森!清水!なにしてんだ!」
喜々津一(キキツハジメ)先生…
函南は神童様に向かってにたっと笑った
しかし神童様は変わらず微笑んでいる
「先生待ってください」
「神童さん?なんだ?」
先生でさえ『神童』と呼び捨てできない
彼女は続ける
「青森さんと清水さんは私に殴りかかろうとした函南さんを止め私を助けてくれました。信じてください、彼らは悪くありません」
「本当なのか?南世?」
「え……?」
女帝が南世を見て優しく笑った
「……はいっ…青森くんと清水くんは悪くないです…!!」
先生は函南を見てこう言った
「…函南、生徒指導室に来い」
函南は青ざめて神童様を見た
「…悪いのはあなたよ」
小声だったがその声は俺にも聞こえた
だからだ
俺は彼女が好きではない
誰よりも美しいが
何よりも
棘がある
毒がある
誰も彼女に触れられない
触れたとたん
毒が回り
死んでしまうんだ
美しさなんて
呪いでしかないというのに
神童砂羽SIDE
「………でさぁ………そう!そう!」
「……なんの話をしてるの?」
「さ……砂羽様!!おはようございます!」
女の子のお喋りは私が入ると終わってしまう
なんの話だったのかしら
「砂羽様今日もおうくしゅうございます」
「神童様シャンプー変えましたか?いつもと違う香りがします」
ちやほやされるのは嫌いじゃない
だけど普通の友達みたいに話したい
……いつからこうなったんだろう
「おはようございます女帝」
「清水……おはよう」
「おはようございます」
「おはよう青森」
私は女帝となって
ずっとずっと求めてた清水直を手に入れた
だから女帝をやめられない
女帝じゃなくなったら清水も青森もいなくなってしまう
「し……神童様おはようございます…!!」
そう……女帝なんてやめられない