私は手が止まった
なんで…三谷なんかに気を使ったの?
私が好きなのは直なのに
「送りますよ、神童様」
なんで…今ドキドキするの?
「三谷、待って」
「?」
私は三谷の腕に自分の腕をからめた
「神童様…!?」
「神童様じゃなくって砂羽よ、淳」
私は直が世界で一番好き
なのに、三谷淳に心を開こうとしている
これは悪くないかもしれない
私は期待してしまったのだ
淳なら苦しみから私を救ってくれると
三谷淳SIDE
神童様…砂羽とのデートも無事終わった
きっと、いや絶対に気に入られた気がする
それが嬉しすぎて
…眠れねえよ!!!!!!
ピンポーン――
誰だ?こんな時間に
「淳――!!真琴ちゃん!!」
荒竹?
「今行くーー」
俺はパジャマのままだったが気がえんのめんどくさくてそのまま出た
「何の用だよ」
「話があるんだ」
荒竹はそれだけ言うと俺の腕を引いて家を出た
「ちょ…!どこ行くんだ!?」
「他の奴らに聞かれたくねえんだよ」
荒竹の目は一瞬だったけどいつもの荒竹とは別人に見えた
俺たちは公園についていた
「話ってなんだよ」
「ストレートに言う、南世ちゃんが襲われた」
…え?
「どういう意味だよ」
「お前が想像している通りだよ」
南世が…なんで…
「俺が一緒にいたから未遂で済んだけどな、本当の狙いは神童様だ」
「…俺のせいなのか?」
「お前は悪くねえって。悪いのは青森と函南だ」
あいつらか…
「お前も気をつけろよ、それだけだ」
荒竹は公園を出て行った
俺が守らなきゃ
砂羽を
星の数ほど
喜びを感じたい
青森深夜SIDE
「失敗しただと…!?」
「あ…いえ!深夜さん!服脱がせるところまではいったんで、ダメージはかなりあると思うんですが…!!」
「…まあ、いいだろう。報酬はくれてやるよ」
「あ、ありがとうございます!」
未遂でも南世のことだ
問題ないだろう
俺は函南に電話した
「俺だ、お前が満足できるかわからないが、うまくいった」
『ありがと!青森って使えるのね』
失礼な奴だ
『あとは、復讐と実行するだけ…成功できたら神童はアンタのだから』
ああ…
あの人にまた一歩近づけた
函南真弓SIDE
アタシは復讐に使えるものを探していた
あの女を誰よりも不幸にするために
カッターとか…いいんじゃない?
直とはまだやってないはずだからあいつまだ処女よね
青森がやってくれるのを期待しよ
それをビデオカメラで撮れば
この学校にはいられないはず
「直…待っててね。全部終わったら、アタシは貴方のところへ行くから…」
涙があふれてきた
直はそんなこと望んでないのは知っている
でもいいの
直の目を覚ますためだから
神童砂羽SIDE
下駄箱を覗くと手紙が入っていた
「何かしら、これ」
「ん、どうかした?」
「気にしないで、淳。先行ってて頂戴」
「うん、なんかあったら俺になんでもいってね」
淳はそういうとすたすた歩きだした
私は手紙を開けてみた
『神童砂羽様、放課後南倉庫前にお待ちしております。』
くだらない
私は手紙を捨てようとした
「!?」
封筒には便箋だけでなく写真が入っていた
二つに敗れた淳の写真
写真の裏には赤い字でこう書かれていた
『こなきゃこいつを写真のようにする』
淳が…
私は手紙をゴミ箱のなかにくしゃくしゃにして投げつけた
字は全部ワープロで誰が書いたかわからない
きっと直のファンの仕業だろう
私は嫌われて当然のことをしてきたのだから
淳を巻き込みたくない
私一人で何とかしてみせる
廊下を歩いていると誰かにぶつかった
「おい!どこ見て歩いてんのよ!」
「あら、ごめんなさい」
「アンタなんか青森くんと清水くんがいなかったら怖くないわよ!さっさと謝んな!」
「謝ったじゃない、耳が遠いのね」
血相を変えて睨みつけてくる女が二人
私は彼女たちのことを知らない
でも私は知られている
なんか…変な感じ
「待ちなさいよ!」
「私、怒鳴られるの嫌いなんだけど」
振り返りながら言うと二人はビクッとして何も言わなくなった
あの二人も容疑者に入るだろう
いや、この学校の全ての生徒が怪しい
私は嫌われ者だから仕方がない
教室に着くと淳がこっちを心配そうに見てくれる
それが何より嬉しくて
私はまだ生きていく価値があるのかもしれないと彼は思わせてくれる
そう、借金返済のために親に売り飛ばされた私に
自分のためだけに人を苦しめた私に
愛する存在を失ってしまった私に
希望をくれた
今度は私が彼を幸せにしなくちゃ
それが今の夢なのかもしれない