ただ幸せになりたい
愛されたい
「おはようございます」
「…おはよう」
昨日から俺は神童様と付き合うことになった
好かれてない
わかっているけど
今はこれでいいんだ
初めてだった
女の子と肩を並べて歩くことが
「…おい、あれって……なんでだ」
「女帝と歩いている男誰だ?」
学校に着くとみんなが俺達を見ている
当たり前か
「…あいつ、三谷淳だ」
「タイミング狙ったのか、サイテーだな」
なんとでも言え
本当は羨ましいんだろ?
付き合ったといってもとくにいつもと変わらなかった
登下校一緒なだけで
みんなの視線が怖いだけで
荒竹と話さなくなっただけで
…南世と話さなくなっただけで
「ねえ、三谷」
「なんですか」
「付き合う前の方が良かったなら無理して私に付き合わなくていいのよ」
「そんなコトないですよ」
神童様は俺と付き合いたくないのか?
なんで……幸せに感じられないんだ?
「…ねぇ、今直は天国から私をどう見ているのかしら」
帰り道急に聞かれた
「恨んでないのかしら」
「…それはないと思います」
気まずくて何をいったらいいのかわからない
「…あんな汚い布なんて捨ててしまえばよかったのよ」
「え?」
「あの時ね、急に強い風が吹いて私のハンカチが飛んでいったの。私がそれを追いかけたから、直は死んだの」
だいたい情景が浮かんでくる
「…後悔してるわ。私が直に告白しなければよかったのよ。学校に転校して出会わなければよかったのよ」
あの女帝が今は弱々しく見えた
「…清水は後悔してないと思う」
「よく言えるわね、あなたは直じゃないのよ」
冷たい氷柱のような声で神童様は言った
「私と付き合っているからって対等な立場に立っているなんて思ってないでしょうね。しょせんあなたは直にはなれないのよ」
わかっている
「私の事…何もわかってないくせに」
わかってない
「…わかってないから知りたいんです。神童様のこと」
俺は清水じゃないし清水には似ても似つかない
でも愛した女は同じ
それ以上に愛してやる
しばらく黙って俺らは歩いていた
お互い違う方向を見て
「…あなたのこと理解できたら、私はあなたを好きになるのかしら」
「…俺は理解できないけど神童様が好きです」
昔に比べたら素直になれた気がする
『好き』だなんて恥ずかしくて絶対に言えなかったはずなのに
俺、本当に神童様が好きなんだ…
「ねぇ」
「はい」
「土曜日、暇?」
ん?これは…
「え、あ…はい」
もしかすると…
「二人でどっか行きましょう」
デッド…間違えた
デートだ!
「はい、嬉しいです!どこ行くんですか?」
「…あなたが決めて」
ありゃ?
ノープラン?
「…わかりました」
初デートだ
わくわくする!!
でもどーしよ…
女の子連れて行くのにゲーセンはだめかな
しかも神童様だし
んー…
「どこ行くか決めたらメールしますね」
神童様は何も言わず頷いた
神童砂羽SIDE
この悲しみを打ち消せたらどんなに楽なんだろう
孤独を感じたくない
だからあなたといるの
だから1日付き合ってもらうの
それくらいなら直も許してくれるよね?
大丈夫
私が愛しているのは直だけなんだから…
青森深夜SIDE
俺は今まで欲しいものは全て手に入れていた
親の財力と俺のこの美貌のおかげで
なのに…あの女は落ちてくれない
こんなの初めてだった
どうしても欲しい
あの美しすぎる女を
自分の手で壊れるところが見たい
「深夜様、函南という女が訪ねてきてますが」
函南…あいつか
「…通せ」
「かしこまりました」
俺の部屋に函南が入ってきた
「ずいぶん偉いのね」
「青森グループ会長の一人息子だからな」
「へぇ、跡取りねぇ。そんな偉い人があんなことしていいのかしら」
…あんなこと?
「なんのことだ」
「とぼけないでよ、あなたが直を殺したんでしょ?」