「はい」



中から母親らしき人が出てきた



あまり神童様には似ていなかった



「どちら様で?」



声は明るかったが



目は死んだように暗かった



「砂羽さんと同じ高校の三谷淳といいます」



「三谷さん?」



「え?」



まるで俺を知っているようだった



「砂羽が昔あなたの事を話していたの」



「俺の…事を…」



少し、嬉しかった



「今、砂羽部屋に閉じこもっているの!お願い!砂羽と話してあげて!」



彼女は俺にすがった



「…砂羽さんに会わせて下さい」






俺は今神童様の部屋の前にいる



「砂羽、三谷くんよ」



そう言って母親は階段を下りて行った



「…神童様、俺です」



返事は来なかった



「俺は…あなたと話したいことがあってきたんです」



急にドアが開いた



「……!!!」



意外にあっさり開いたな…



「…なんなの?」



彼女の顔に生が感じられなかった



しかし気品は落ちてなかった



「…なんで……三谷は……ここにいるの?」



まるで人形のような



「…こんな……私に……私のために…」



もう迷わず言える



「あなたが好きだからです」



好きだから…






神童様は驚いたようだった



「…自分のためだけに人を傷つけた私が、あなたは憎くないの?」



俺は頷いた



「…本気で私を好きだというの?」



「愛、してます」



急に神童様が俺に抱き着いた



「……!!」



彼女は泣いていた



「…嬉しいの……あなたに…好かれて……みんなに、嫌われたと思ったから…」



俺はなにも答えなかった



彼女の温かいしずくが肩に落ちた



「……でも」



俺はこれでいいんだ



「私が好きなのは直よ」



これで…






ただ幸せになりたい



愛されたい






「おはようございます」



「…おはよう」



昨日から俺は神童様と付き合うことになった



好かれてない



わかっているけど



今はこれでいいんだ



初めてだった



女の子と肩を並べて歩くことが



「…おい、あれって……なんでだ」



「女帝と歩いている男誰だ?」



学校に着くとみんなが俺達を見ている



当たり前か



「…あいつ、三谷淳だ」



「タイミング狙ったのか、サイテーだな」



なんとでも言え



本当は羨ましいんだろ?







付き合ったといってもとくにいつもと変わらなかった



登下校一緒なだけで



みんなの視線が怖いだけで



荒竹と話さなくなっただけで



…南世と話さなくなっただけで



「ねえ、三谷」



「なんですか」



「付き合う前の方が良かったなら無理して私に付き合わなくていいのよ」



「そんなコトないですよ」



神童様は俺と付き合いたくないのか?



なんで……幸せに感じられないんだ?






「…ねぇ、今直は天国から私をどう見ているのかしら」



帰り道急に聞かれた



「恨んでないのかしら」



「…それはないと思います」



気まずくて何をいったらいいのかわからない



「…あんな汚い布なんて捨ててしまえばよかったのよ」



「え?」



「あの時ね、急に強い風が吹いて私のハンカチが飛んでいったの。私がそれを追いかけたから、直は死んだの」



だいたい情景が浮かんでくる



「…後悔してるわ。私が直に告白しなければよかったのよ。学校に転校して出会わなければよかったのよ」



あの女帝が今は弱々しく見えた



「…清水は後悔してないと思う」







「よく言えるわね、あなたは直じゃないのよ」



冷たい氷柱のような声で神童様は言った



「私と付き合っているからって対等な立場に立っているなんて思ってないでしょうね。しょせんあなたは直にはなれないのよ」



わかっている



「私の事…何もわかってないくせに」



わかってない



「…わかってないから知りたいんです。神童様のこと」



俺は清水じゃないし清水には似ても似つかない



でも愛した女は同じ



それ以上に愛してやる






しばらく黙って俺らは歩いていた



お互い違う方向を見て



「…あなたのこと理解できたら、私はあなたを好きになるのかしら」



「…俺は理解できないけど神童様が好きです」



昔に比べたら素直になれた気がする



『好き』だなんて恥ずかしくて絶対に言えなかったはずなのに



俺、本当に神童様が好きなんだ…



「ねぇ」



「はい」



「土曜日、暇?」



ん?これは…



「え、あ…はい」



もしかすると…



「二人でどっか行きましょう」



デッド…間違えた



デートだ!