荒竹真琴SIDE



「遅かったな、何してたんだ?」



三谷が遅いなんて珍しいな



なんか顔が暗い



この顔は確か…



フラれた時の顔だ



「フラれたのか―?女の子に~」



「……死ね」



ぎゃぁ!



ホントにフラれてた!?



「南世ちゃんか?」



「なんでそれを…!?」



俺をなんだと思ってる?



「わかりやすいんだよ二股ヤロー」



三谷の顔が少し明るくなった



「なあ」



「ん?」



「神童様の家知ってる」



!?






「抜け駆けは許さんぞ!!!」



「ち…ちげーよ!」



あたふたする三谷



おもしれぇ…



「ほい。これ住所」



「…なんで知ってんだ?つーか、ストーカーで捕まるぞ」



「どこで知ったかは企業秘密だ」



実は本人に聞いたのだ



意外にサラッと教えてくれた



「今から行くのか?」



「…ついてくんなよ」



いかねーよ



どーせ三谷の事だし告んだろ



「ばっちりフラれろよ」



「…死んでしまえ」



…応援したつもりなのに






三谷淳SIDE



荒竹からもらった紙を頼りに神童様の家を目指す



俺のこの気持ちは南世に荒竹に気づかされた



ありがとう…



フラれてもいい



軽蔑されてもいい



ただ伝えるだけでいい



伝わればそれでいいんだ



「ここか…」



『神童』



俺はゆっくりインターホンを押した






「はい」



中から母親らしき人が出てきた



あまり神童様には似ていなかった



「どちら様で?」



声は明るかったが



目は死んだように暗かった



「砂羽さんと同じ高校の三谷淳といいます」



「三谷さん?」



「え?」



まるで俺を知っているようだった



「砂羽が昔あなたの事を話していたの」



「俺の…事を…」



少し、嬉しかった



「今、砂羽部屋に閉じこもっているの!お願い!砂羽と話してあげて!」



彼女は俺にすがった



「…砂羽さんに会わせて下さい」






俺は今神童様の部屋の前にいる



「砂羽、三谷くんよ」



そう言って母親は階段を下りて行った



「…神童様、俺です」



返事は来なかった



「俺は…あなたと話したいことがあってきたんです」



急にドアが開いた



「……!!!」



意外にあっさり開いたな…



「…なんなの?」



彼女の顔に生が感じられなかった



しかし気品は落ちてなかった



「…なんで……三谷は……ここにいるの?」



まるで人形のような



「…こんな……私に……私のために…」



もう迷わず言える



「あなたが好きだからです」



好きだから…






神童様は驚いたようだった



「…自分のためだけに人を傷つけた私が、あなたは憎くないの?」



俺は頷いた



「…本気で私を好きだというの?」



「愛、してます」



急に神童様が俺に抱き着いた



「……!!」



彼女は泣いていた



「…嬉しいの……あなたに…好かれて……みんなに、嫌われたと思ったから…」



俺はなにも答えなかった



彼女の温かいしずくが肩に落ちた



「……でも」



俺はこれでいいんだ



「私が好きなのは直よ」



これで…






ただ幸せになりたい



愛されたい






「おはようございます」



「…おはよう」



昨日から俺は神童様と付き合うことになった



好かれてない



わかっているけど



今はこれでいいんだ



初めてだった



女の子と肩を並べて歩くことが



「…おい、あれって……なんでだ」



「女帝と歩いている男誰だ?」



学校に着くとみんなが俺達を見ている



当たり前か



「…あいつ、三谷淳だ」



「タイミング狙ったのか、サイテーだな」



なんとでも言え



本当は羨ましいんだろ?







付き合ったといってもとくにいつもと変わらなかった



登下校一緒なだけで



みんなの視線が怖いだけで



荒竹と話さなくなっただけで



…南世と話さなくなっただけで



「ねえ、三谷」



「なんですか」



「付き合う前の方が良かったなら無理して私に付き合わなくていいのよ」



「そんなコトないですよ」



神童様は俺と付き合いたくないのか?



なんで……幸せに感じられないんだ?