17時。
あたしの目の前にあるのは、重厚そうなドア。
―――コンコン
それをノックした。
「どうぞ」
聞き覚えのある声がした。
1度、大きく深呼吸する。
落ち着け、落ちつけあたし。
今日は、“息子の彼女”として会うんじゃない。
“取引先の令嬢”として会うんだから―――。
そう自分自身に言い聞かせた。
―――ガチャッ
ドアを開けた。
すると、
「いらっしゃい。久しぶりね」
如月財閥社長、流川千歳さんがいた。
「ご無沙汰しております」
そう言い、あたしは礼をした。
「どうぞ。こちらにお掛けになって」
「はい。ありがとうございます」
言われた場所に座ったあたしは、千歳さんと向かい合った。
視線が交差する。
その度・・・不安になる。
あたしの気持ちが、バレないかって―――。
「満奈ちゃん、また綺麗になったわね」
「いえ、そんな・・・」
あたしは今日、初めてスーツを着た。
凄く気が引き締まるんだけど・・・似合ってるのかな?
綺麗なんて、お世辞だよね?
“桜井満奈”に“綺麗”は無縁の言葉だよ。
目の前で優雅にコーヒーを飲む千歳さんの方が、よっぽど綺麗。
「・・・さてと」
コーヒーをテーブルに置いた千歳さん。
そして、たくさんの資料を持ってきた。
仕事の事となると目の色が変わる千歳さんに、あたしは尊敬した。
ホントに・・・あたしなんかが社長でいいのかな?
ちょっぴり怖気ついた。