“どうしたの?”
ほっといておけなくて、私は彼女に声をかけた。
私の声に驚いたのか、ビクッと肩を震わせる彼女。
そしてゆっくりと、私の方を見た。
“橘さん・・・”
その涙声はあまりにも切なく聞こえて。
胸が痛んだ。
風で揺れた彼女の肩までかかった髪。
潤んだ瞳。
濡れた頬。
全てほっといておけなくて。
“私の事は麻友でいいよ”
気がついたら私は、そう言って手を差し伸べていた。
そしたら彼女は、
“じゃあ、あたしの事は満奈って呼んでね”
笑顔で、私の手を握ってくれた。
その笑顔は、ホントの笑顔だった。
橘麻友と桜井満奈の関係は、ここから始まったんだ―――。
「ねぇ、麻友は好きな人とか彼氏とかいないの?」
今は私の部屋に満奈と2人。
満奈が変な事を聞いて来た。
「いないよ~」
りんごジュースを飲んだ後。
私はそう答えた。
「へぇ~。ホントに?」
「ホントだってば」
彼女は、私だけに心からの笑顔を見せてくれるようになった。
それ以外は仮面をつけているか、ボーっとしているか。
それから、私だけに今までの事を教えてくれた。
流川隼斗との事。
妹の事。
会社の事。
家族の事。
許婚の事。
アイドルの事。
Rainbowの事。
“あたしは隼斗の事、今でも愛してるんだ”
その時の満奈の表情は、きっと忘れられない。