(side春風)

「桜井仁菜さんが、意識不明の重体で発見されました」

この電話がかかって来たのは、21時を少し過ぎた頃だった。

俺と双葉は、会社にいた。

「は・・・?」

耳を疑った。

いきなり電話がかかって来たと思ったら、“仁菜が意識不明”だと?

「嘘ですよね・・・」
「・・・今すぐ病院に来てください」

嘘だと言ってほしかった。

でも・・・電話の向こうにいる人は。

少し躊躇った後、そう言った。

―――――ブチッ ツーツー・・・

電話を切った。

そこで、初めて気がついた。

自分の身体が・・・震えてる事に・・・。

「春?どうしたの?」

双葉に呼ばれ、我に帰った。

夢から覚めた様な気分だった。

・・・夢のままだったら、良かったのにな。

「仁菜が、意識不明で病院に運ばれた・・・」

唇が震える。

俺がそう伝えると、

「・・・嘘でしょ?」

やはり彼女も、俺と同じリアクション。

そう簡単に、現実を受け入れられるわけがない。

その現実とは、



―――――仁菜の意識がない、と言う事。



大事な娘がそんな目にあった時。

どうやって、現実を受け止めればいいんだろう?

頭の上に、石が落ちて来たような気分だった。