そんな二人はそっちのけで、新川はトウヤや宝王子に詰め寄られていた。
「な、何でって…最初から女かなーと……さっき手ぇ握って確信した」
「ああ、それで……」
 宝王子は先ほどの、まじまじと掴んだ手を見ていた新川を思い出す。アレは、自分の考えを確かめようとしての行為だったのだ。
「く…公爵になるからには舐められないよう、わざわざ男装したのに!!」
 貴族というのは女王と異なる。女王は害となる人物や家を半ば強引にも処罰できたりするのだが、公爵は少なくとも同等の権力を有した者がいる。それらに足元を掬われれば、家の衰弱を招きかねない。それが故に、クラウディオは当主に就いた二年前から表に出るときは男装し、紳士として振る舞ってきたのだ。
「普通気づくって」
「いや…気づかねぇよ普通……」
 あっけらかんと言ってのける新川に、宝王子が否を唱える。流石、二年間男として通してきただけのことはある。口調・外見・所作までもが優雅なジェントルマンである。
 プライドがあったのだろう、クラウディオは本気で悔しそうだ。
「身長だって百七十五あるのに!!」
「…俺よりある……」
 クラウディオの暴露に傷ついたのは、宝王子だ。がらがらと男のプライドが崩れていく音が聞こえた気がした。
「とにかく、この姿の私を見て女だと気づいたヤツはいなかったんだ!!」
 そうだろうね。
 彼女怒声に、コロッと信じ込んでいた宝王子や大山は内心で大きくうなづく。男装している人を女性じゃないか、などと疑うわけがない。しかも、それがとびっきり上品な美人サンなら尚の事だ。クラウディオも自信があったに違いない。
 強い視線でズビシッと新川を指さす。
「お前、相当な女好きだろう!!」
「えー」
 断言されて、新川は不満そうに唇を尖らせる。そして、ググッと顔を近づけた。ムムッと手に顎を当てつつ、唸っている。
「どう見ても女なのに…」
「近づくな!!」
 バシーンッ
 クラウディオは新川を勢いよく突き飛ばすと、距離をとる。嫌になったのだろう。「失礼する!!」と短く告げ、さっさと去ってしまった。