翌朝。本部は静まり返り、鳥の鳴く声がかすかに聞こえる。夜はすでに明け、まばゆいばかりの日光が出ている。その光に、夏のような激しい暑さは無い。風も涼しい秋風で、コスモスが揺れる。帝の趣味に合わせて作られた庭園には、惜しげもなく花が植えられている。最も盛りなのは、やはり紅葉か。赤々とした色が、青によく映える。
 その前に、黒塗りの車がつけられた。ドアが開く。
 黒く長い髪が腰を覆う。瞳は深い緑。身長は高い方で、女性らしいまろやかな体つきをしている。彼女が、次期フランス女王だ。
「はじめまして。私がミカエル・フランソワーズだ」
「俺は側近のトウヤ・シャトレーゼな」
 車の後方座席から降りてきた二人が、日本語で宝王子と新川に言った。思わぬことに二人が驚く。流暢な日本語だった。
「えーっと…日本語上手いですね?」
 宝王子も新川も、夜通しでフランス語のテキストを開いていた。結局、寝て起きたら全てすっ飛んでいたが。
 そんな質問に答えたのは、運転席から降りた人物だった。
「二人は幼いころ、日本にいたからねー」
 ゆるくウェーブした蜂蜜のような黄色の髪を揺らしつつ、青年がやわらかく笑う。双眸はシナモンのような茶色。どこか甘い雰囲気を含んでいた。
「僕はフランス騎士団のラブラドール。よろしくねー」
「あ…はい」
 圧倒された宝王子は、そうとしか言えなかった。
 質素な扉を開く。木で作られたこの扉は何の装飾もないが、よく見ると手触りの良い高級なものだ。
 ミカエルが部屋に入り、トウヤとラブラドールが後に続く。宝王子と新川が入室したころには、すでにミカエルはソファに腰掛けていた。
「私が日本を統率している軍帝だ。…して、話とは?」
「私も時間が惜しい、はっきりと言わせてもらおうか」
 帝の単刀直入な切り返しに、ミカエルが軽く笑みを浮かべてトウヤを見る。トウヤはそれに反応して、持っていた紙をテーブルに広げた。