宝王子は気付けば、自分の部屋にいた。
見慣れた天井、身体に染みている匂い。
ぼんやりとしながら、ベッドに横たわっていた。
 あれから山代がどうなったのか、宝王子は知らない。
名前すら出ていない。
それが真実だ。
 山代が裏切ったのは理解出来た。
しかし、心がそれを受け入れないでいる。
 山代と初めて出会ったのは、軍人を目指す者が入る国立学校に入学したときだ。
もう五年以上の付き合いになる。
それでも、まだ分かっていない部分があったのだ。
 あんな顔をする大山は初めてだった。
緊迫した空気の中で静かに見ていた新川は意外だった。
みんなのことを、本当は何も知らなかったのかもしれない。
 考えることが多すぎて、宝王子はけだるくなる。
そんな折りを見計らったかのように、扉がノックされた。
 「…王子、いる?」
「……なに?」
 宝王子は声に応じて、身を起こす。
入ってきたのは大山と帝。
 珍しい組み合わせだった。
「帝…」
「来て正解だったな。まだ整理がついておらぬのだろう?」
 帝は疑問詞で投げかけてはいるが、それは限りなく確信に近い。
現に帝は、さっさと室内に入り、優雅にソファーに腰掛けている。
大山がその隣に座った。
「私のお母様は中国で亡くなった。内乱に巻き込まれてね」
「え…」
「でも、復讐したいから軍人になったわけじゃないよ。私は、私みたいな人を作らないために軍人になったの」
 大山の実家は忍者家系だと聞いている。
柳と泉も伊賀の忍者家系だ、裏情報はよく知っていた。
忍者は主人の影として働くのだと言う。
正直、宝王子にはよく理解出来ないでいるが。