翌朝。
再び采は投げられ、戦闘が始まる。
 宝王子は昨日と違い、前線にはいなかった。
「暗天星華」を腰布に括りつけ、強い瞳で戦場を見る。
鼓動が高鳴り、何かと呼応するかのように身体が熱い。
 天性の才能ならば、新川の右に出るものはいない。
新川はすでに「暗天星華」の力を使えるようになっていた。
 新川の持つ黄色の「暗天星華」の能力は雷。
他の玉にも様々な能力があるのだろう。
宝王子もまた、早くそれが使えるようになりたかった。
「敵本陣に動きあり!」
「風神」の隊員が慌てながら叫ぶ。
それと時を同じくして、前線がもの凄い勢いで圧されはじめた。
「何だ…!?」
 どぉぉん
 腹に響くような音が響いている。
前線は砂煙に覆われて、何も窺い知れない。
 大山が急いで出したのは、「撤退願い」だった。
「シーザー・シルバーバーグです!!シーザー・シルバーバーグが前線に出て来ました!!このままでは潰走は免れませんっ!!」
「さすがは『猛将』…仕方ない。退け!!」
 聖徳の怒鳴り声が聞こえると、味方の兵たちが必死でやってくる。
宝王子は彼らを護ろうと、動くことなく前方を見遣る。
「疾風」の撤退は泉に任せていた。
 ふと、砂煙の中からゆらりと人影が見える。
赤と白のサーコートを揺らめかせる緋色の髪の青年。
太い剣を握るその手は細く、身体も華奢に見えた。
「俺がシーザー・シルバーバーグだ!!誰か俺の首を捕ろうって奴ぁいないのか!?」
「俺が相手したげるよ!」
「へぇ…陸軍の将軍か。いいぜ、来いよ!!」
 巧みに馬を乗りこなしやってきた青年――彼こそが、『猛将』シーザー・シルバーバーグその人である。
琥珀色の双眸をギラリと輝かせ、しなやかな動きで馬頭を宝王子へと向ける。
「お前は騎乗より地面派か…いいぜ。降りてやるよ」
 言うとシーザーは馬から降り、にやりと口元に強気な笑みを浮かべる。
それにカチンときた宝王子も負けじと笑い返す。
「後悔すんなよ!!」
 鈍い金属音が鳴り響いた。