やって来たのは帝である。
黒馬に跨がったまま近付く彼に従うのは、軍師ただ一人。
無防備と言えば無防備だった。
「そうか…貴様が日本の主将か……」
「お前に貴様呼ばわりされる筋合いはないが」
「クックク…そうか。ならば…死ねぃ!!」
低く笑った敵武将は、叫ぶと同時にものすごい勢いで帝へと突っ込んで行く。
驚いたのは宝王子だ。
いま側近は聖徳しかいない。
戦場で剣を持ったのは今日が初めての、彼だけだ。
宝王子すらも虚を突かれた攻撃だ、止められるはずがない。
「帝!!」
間に合わない――!!
もう駄目かと思われたそのとき。
ガキィィィンッ
けたたましい金属音がその場に響き渡った。
恐る恐る閉じていた目を開けて、様子を見る。
そこには、驚愕な光景が繰り広げられていた。
刃が、止まっている。
しかもそれだけではなく、攻撃した敵武将の胸部には剣が刺さっていた。
「帝に手出しはさせん!」
聖徳だった。
本当の初陣とは思わせぬ動きで間に入り、左腕で刃を押し止め、右手で握っていた剣で胸を貫いたのだ。
さすが文官だ、急所を的確に突いている。
「聖徳さん…!?」
いい加減驚きすぎて疲れてくるくらいだが、それどころではない。
なんせ、聖徳が武将を、しかも戦を指揮していた主将を倒してしまったのだから。
「おのれ…無念!!」
掠れたような声で最期に吐き捨てると、男は地面に崩れ落ちた。
「帝、聖徳さん!ご無事ですか!?」
「おい、大丈夫かよ!?」
敵武将が倒れると同時に膝をついた聖徳に、二人は慌てて駆け寄る。
もともと蒼白な顔色が、さらに真っ白になっていた。
今ので精根使い果たしたようだ。
しばらく立てはしないだろう。
「…聖徳」
「はっ」
「乗るがいい」
「…は?」
差し出したのは跨がっていた黒馬である。
手を差し延べた彼に、聖徳は間の抜けた声を漏らす。
「今戦の最武勲賞は聖徳だからな」
このくらいはしてやろう、と口元に薄い笑みを透きながら言う。






こうして、日本軍の初陣は幕を閉じたのであった。