群れの中からようやく脱出出来た宝王子は、しかし戦陣ではなく本陣に帰陣している最中だった。
新川の首根っこを捕まえ、ズルズルと引きずりつつ。
 二人の横にいるのは、柳のみ。
泉は「疾風」と「雷迅」の指揮を任され、離れていた。
「ホンマに行くん?」
 柳はブチブチ文句を言い、口を尖らせる。
柳は新川を医療班に連れていくことに反対していた。
当然である。
彼がヘマをしたせいで、本来は護る立場の帝に戦陣を任せる事態になってしまった。
医療班「白夜」の将軍は山代聖。
医学のスペシャリストで、メスやクーパーをまるで手足のように使用して手術する。
それには感嘆する他ない。
「助けるつもりはねぇよ。俺が文句言うよりアイツに任せたほうが効果的だろうしな」
 そう言っている間に、本陣付近までやって来ていた。
すぐそこに「白夜」の医療拠点が見える。
今は空いているのか、静かだ。
 そんな拠点を見て、宝王子は新川を思いきり蹴りつけた。
明らかに怒り心頭、と言わんばかりのそれに素晴らしい勢いで新川は吹っ飛び、放り込まれる。
 それを目で追いながら宝王子と柳はのんびりと中に入った。
「よう」
 中には二人が椅子に座っていた。
 癖の強い黒髪を短くし、細めの目でびっくりしたようにこちらを向いている少女。
彼女が特殊部隊「漆黒」の林雪だ。
 その向かいにいる白衣を身に纏った少年は「白夜」の山代聖。
日本軍において医療のトップに立つ存在である。
「よ、じゃないよ。びっくりしたぁ……」
「気にすんなよ。そんなことより山代」
 そんなこと、で片付けられた林が力を抜かす。
人を蹴り込んどいてサラリと流す彼は、強者と言える。
「ま、しょうがないんじゃない?今回は」
 にこりと笑って山代が立ち上がり、頭を摩る新川に近づいていく。
心なしか、新川が一歩下がる。
「なんせ、帝にあんなことさせたんだから。お怪我がなかっただけよかったけどね……」
「お手柔らかに、な?」
 新川がヒクリと口の端を震わせつつ、引き攣った笑みを浮かべる。
宝王子も林も、口だしするつもりは皆無らしい。
「それは新川次第だね」
 次の瞬間、つんざく新川の悲鳴が上がった。
しかしそれに気を取られる人物は誰もいなかった。