軍帝は嘆息する。
それと共に、呆れていた。
「弓一つ引けぬお前をどうせよと?愚か者、さっさと本陣に戻れ」
 敵の襲撃が一段落ついたところだった。
帝は朱に染まった剣を血振るいで落とし、自分に従属する優秀な軍師を見る。
 聖徳。
彼は体型こそ軍帝より大きいが、武のほうはからっきしだった。
文才を行うために生まれてきたようなものだ。
 それと違い、身体は華奢だが帝の武才には目を見張るものがある。
強さの中に優美さが備わっており、実力者。
幼少から狩りに出ていたからだろう、馬術も弓術もたいしたものだ。
「いいえ、戻りません」
 しかし、聖徳はきっぱりと断った。
頭のよい彼のことだ。
このままここにいても役に立たぬことは承知のはず。
何故そこまでこだわっているのか、帝には理解出来なかった。
「何故そこまで執着している、聖徳」
 訝し気に尋ねる。
このような血生臭いところ、無体験である聖徳にするとかなりの苦痛に違いない。
それでも聖徳は引かぬと言う。
 帝にはその心理が理解できなかった。

「このような私でも、盾にはなれましょう。膝をつきそうになったとき、支えにはなれます。これでは理由になりませんか?
私は貴方を護るためにここにいるのです。いえ、私以外は有り得ない」

聖徳の真っ直ぐな視線は、彼に臆することなく注がれる。
恐怖すら覚える一途すぎるそれに、帝の無表情にある瞳が揺れた。
 だがそれも一瞬のことで、すぐに消える。
「…せいぜい足手まといにならぬよう、努力することだ」
「はい」
 帝の素っ気ない返答に、聖徳はにっこりと笑顔で頷いた。