4月1日 渋谷隣接郊外

21:35

どれだけ走り続けたか…

渋谷からはだいぶ離れたようだ。

周りには同じように逃げて来た人達が疲れ果てて座り込んでいる。

ユイを見ると、ユイもこれ以上走るのは限界のように見えた。

「ここまで来ればだいじょぶだろうからちょっと休もうか」

ユイは黙って頷いた。


渋谷の方角を見ると夜の空が赤くぼやけて見える。

もう爆発音は聴こえない。
代わりに救急車のサイレンの音が微妙に聞こえてくる。

「オェッ」

少し前まで、あの悪夢のような場所いたと思うと吐き気がしてきた。


ユイを見ると、ずっと黙ったまま、しゃがみ込み下を向いたままだ。

あれほどの惨状…

人間はあんなにも簡単にバラバラになってしまうのか…


人間からはあんなに多くの血が流れるのか…


人間の悲鳴とうめき声が頭の中で繰り返し繰り返し再生される。



きっとユイもそんな状況なのだろう。



こんな中、意外におれは平常心を保てた。


目の前で起きたことを思い出すと気持ち悪くなるが、自然と頭は冷静だった。


この方向に逃げてきたのもただやみくもに逃げてきたのではなく、暗い方、静かな方を選びながら走ってきた。



携帯を開くと好きなグラビアアイドルが水着姿で微笑んでいる。
画面は通常に戻っていた。

ただ画面の右上には、



『129,261,550/130,000,000』
…129,261,549…129,261,548…129,261,547…


これだけはいつものおれの携帯とは違った…