キミを信じる【完】

スンの体温を感じていた私の身体に冷たい空気が触れて涼しくなる。


心の中に風がふいた感じ。


スンはそのままシャワーに入って、私はご飯を食べる。


いつもと同じサラダとおにぎり。


「よくそれで足りるな。」


「ちゃんと服着ないと風邪ひくよ。」


もう秋なんだからと付け加えても聞いてくれない。


上半身裸と濡れた髪のままお弁当に口をつける。


コンビニで温めてもらったのに、もう冷めちゃったよ。

スンが髪を乾かしてスーツに袖を通しているとき、私も着替える。


スンが私が居ても着替えたりすることに全く躊躇しないから、私も気にしないように強気な態度をとってみる。


一応壁側を向いて制服を脱いで私服に着替えた。


壁側を向けばスンが私の方を見ているかなんてわかんないから、恥ずかしくないって自分に言い聞かせられる。


私が着替えてる最中にもスンが準備をしてる音だけは聞こえるから、きっと私の着替えなんてスンは気にしてない。


「じゃぁね、キム。」


私の頭をポンポンと叩いてスンは家を出る。


もちろん家の鍵は持たずに、ついでにケータイも持たずに。

明日は土曜日で学校が休みだから、今日はここに泊まるつもり。


泊まるって言っても、夜はいつもみたいに街を出歩いて人間観察。


朝方眠くなってきたらスンの家に戻って眠りにつくだけ。


スンに出会っても、私は何も変わってない。


街には今日も人だかり。


金曜と土曜はやっぱり飲み歩いたり、遊び歩く人が多い。


数人の団体グループを見かけるのも、週末が多い。


きっとスンの働くキャバクラも混んでいるのだろう。
今日は友達3人に誘われて放課後に教室で化粧をバッチリしてショッピングへ。


制服のまま放課後ショッピングは結構バカにならない。


女子高生が制服きて数人でキャピキャピと買い物するのなんて、高校でしか出来ないだろうから。


みんながバラバラのクレープを買って、一口ずつ味見してあれが美味しいとか生クリームが嫌いだとか。


このマスカラは使いやすいとか、あのライナーはすぐにダメになるとか。


服を見て、誰がどういう系のが似合うだとか。


結構楽しかった。
化粧品売り場の試供品を使ってみんなでワイワイやっていたら、結局はいつもより濃いメイクになった。


その濃いメイクのまま、みんなでプリクラを撮った。


プリクラ撮るどころか、写真を撮ること自体が私にとってはひさしぶり。


家族が壊れてから写真なんてとってなかったけど、出来上がったプリクラを見る限り、私はちゃんとみんなと一緒に笑えてた。


私って案外強いんだななんて思っちゃった。


帰りはみんなでお揃いのものを買おうって話になって、下町の雑貨屋通りへ。


友達3人が通りをどんどん先に歩いていく中、私はアジアンチックな輸入商品の並んだお店が気になって足を止めた。


黒猫の木彫り人形に付けられた鈴のストラップ。
スンの家のドアにつければ、私が寝ててもスンが帰ってくれば起きられるかな。


自由気ままそうなスンに黒猫のイメージはピッタリだ。


これ、可愛いなぁー。


「可愛いね。それが欲しいの?」


急に声をかけられて見上げると、2人の男の人がいた。


「あ、あの...。」


いつものクセで、上目遣いのまま戸惑う少女を演じてしまった。


慣れというものはやっぱり怖いね。
「1人で買い物してるのー?淋しくない?」


「いえ!友達も一緒なので。」


「見た感じ近くに友達いないっぽいけど〜?」


まぁ、先に歩いて行ったからね。


「はぐれちゃったんじゃね?俺たちが友達探してあげようか!」


「本当に大丈夫です。連絡すればすぐに会えるので。」


夜だったらこのまま話相手になってあげてもいいけど、私は今友達と遊んでて楽しいんだから邪魔しないで。


ケータイを出して友達の連絡先を表示する。
「そんな焦んなくても大丈夫だって。俺らとちょっとだけお茶しない?」


私のケータイはあっさりと男によって取り上げられた。


こいつムカつく。


キレていいかな...。


そのとき、私のケータイが電話の着信を知らせてメロディが鳴った。


「ケータイ、返してください。」


手を出してちょっとキレかかった私が男を睨む。
「そしたらおねえさん遊んでくれないじゃん。」


そう言って私のケータイは鳴ったまま男に高く掲げられた。


私にケータイを渡す気はないってことね。


ケータイを見捨ててお店を出る。


「ちょっとちょっと!ケータイどうすんの〜。帰んないでよ。」


男が慌てて私を追いかけてくる。


思ってた通りに私の腕をつかんできた。


よしっ、きた!