「週どれくらいバイト入れるかな?」
「平日の夕方でしたら、どれくらいでも大丈夫です。」
「本当?いやぁー、助かったよ。先日何人かまとめて仕事やめられちゃってさ、今すごく人手が足りないんだ。」
「そうなんですか...。」
「で、早速働いてもらいたいんだけど、明日とか大丈夫かな?」
明日!?
しかも私の渡した履歴書なんてろくに見ないで採用決定?
初めて書く履歴書に悪戦苦闘したのに、むしろ履歴書なくてもよかったじゃん!!
とりあえず...
「大丈夫です。宜しくお願いします。」
ということでバイトすることになった。
いろいろとバイトの説明を受けて今更ながら気がついたんだけど、今働き始めても給料がもらえるのは1ヶ月後なんだよね...。
翌日もスンにメールを入れてバイト先に向かった。
バイトすることになったことは伝えずに。
初めてのバイトは、ざっと1時間で全体的な説明を受けて、裏方でオーダーの受け方を練習して、早速実践。
本当に人手が足りないよう。
ぎこちない言葉遣いに、メニューの正式名称とかもよくわかってなくて、お客さんに温かい目で見守られながらオーダーを受けた。
あとは先輩に指示されるままにテーブルを片付けたり、料理を運んだり、お水をだしたり...。
わたわたと時間が過ぎて、他の従業員とも挨拶出来ないままバイトが終わった。
1日おきにバイトに入ることが決まって、次のバイトはあさって。
くたくたに疲れた身体をなんとか家まで運び、そのまま眠りについた。
2日続けてスンに会わないなんて、どれぐらいぶりだろう。
相変わらずスンからのメールはこない。
明日は放課後にスンの家に行こう。
「キムー。」
「えっ!?」
スンの家のドアを開ける前に呼び止められた。
振り返ると、スンがこっちに向かって歩いてきてた。
「なんで寝てないの?」
「ご飯買ってきたー。」
あ、そっか。
2日ぶりにスンに会うことに浮かれてて、ご飯買ってくるの忘れてた。
スンと一緒に家に入ると急に後ろから抱きしめられた。
「な、何!?」
「キムのにおい、久しぶり。」
「変態っ!!離してよ。」
スンの腕の中でもがいてると、より一層腕の力を強めてきた。
「無理。会いたかった。」
ささやかれたその言葉に心臓の動きが早まった。
スンの言葉にドキドキする。
しかも嬉しくて口元がゆるむ気がした。
私って単純なんだなー。
幸せな夢を見てるみたい。
こんな気持ちになるなら、いつまでもこの幸せな夢をみていたい。
スンに騙されててもいい。
だから一生この夢を終わらせないでほしい。
そんなことを思いながら私もスンのにおいに気持ちを落ち着かせる。
「ご飯食べよっか。」
急にそう切り出したスンは腕の力を緩ませて、テーブルでお弁当を開け始めた。
相変わらず気分屋で、甘い時間から普通の時間にすぐ切り替わる。
そんな切り替えの早いスンには振り回されるよ。
「今日は仕事じゃないの?」
「うん。休み。」
事前に休日を教えられたりしないから、いつも当日になって知る。
どうせスンが仕事休みでも、別にどこかに行く予定もないし。
「バイトの面接、手当たり次第受けてるの?」
やっぱり2日続けてこの家に来なかったから、勘づかれてるね。
「まぁそんな感じ。」
「なんか欲しいものでもあるの?」
またバイトする理由を問いつめてくるのか...。
「そんなに私がバイトするの反対?周りの友達も結構バイトしてるよ。」
「バイト始めたら、キムと会う時間少なくなるじゃん。」
玄関で会いたかったって言ってくれたときは素直に嬉しかったのに、今の言葉には素直に喜べなかった。
またさらっと言うから、あんまり言葉に温度を感じなくて。
あー、はいはい。
って軽く流せちゃう感じ。
「もうバイト決まったから辞めるつもりはないよ。」
面倒だから言っちゃった。
予想通り、驚いてるスン。
まぁ、私がバイトしようと思って求人開いてたのはつい3日前の話だもんね。
「決まるの早くない?じゃぁ昨日と一昨日ここに来なかったのはバイトに行ってたの?」
「人手が足りないらしくて、一昨日面接に行ったらその場で決まっちゃった。」
驚くのも無理ないよね。
私だって初めてのバイト探しで結構身構えてたのに、こんなにもあっさり決まって拍子抜けしたもん。
「どこで働いてるの?」
「...学校の近くのファミレス。」
「今度見に行くね。」
満面の笑顔で返すスン。
なんとなくそう言われる気がしてたから、バイトが決まったってあんまり言いたくなかったんだけどね。