「ねーねー、おとおさん!」
「どーした絢音?」
5歳のあの日、
友達の由奈ちゃんのお見舞いに仕事が休みだったお父さんと来たんだ
お父さんはここの病院のお医者さんで、由奈ちゃんの主治医なの
お見舞いの帰りに、
病院の中庭で散歩してた
そしたらね、
君を見たんだ。
桜の木に登って
座って空を見つめてる
私と同い年ぐらいの男の子
すごくね、
綺麗だと思ったの。
何かを思い、
頬をつたう涙をね、
生まれて初めて
人の涙を美しいと思ったよ
「あの桜の木の上の男の子、泣いてるよ?」
「あぁ、悠李くんか、」
「悠李くん??」
「そーだよ。パパの患者さんだ。絢音と同い年だ」
「悠李くんかぁー、ねぇ、悠李くん何であんな所いるの?」
「悠李くんはね、半年前から入院してて、今は遠い所に住んでるお父さんとよく2人で桜の木に登って空を見たんだって。まだ5歳だから、きっと寂しいんだろう…、毎日のようにあそこで泣いてるよ」