千秋くんがそんなこと…!
「今日返すつったのにまだ返せねぇんだよ!」
おじさんはものすごく怒っている。
これはヤバそうだな…
「さっさと返せ!」
おじさんの怒鳴り声に千秋くんはビクッと震えた。
千秋くんきっと怖いんだ。
「…何円返せばいいんですか?」
「あ?」
「あたしが返します、何円ですか?」
千秋くんを守れるのはあたししかいない。
お金は自分のはだいたいあるし…
「2万だ」
「わかりました」
あたしは財布を出しておじさんにお金を渡した。
おじさんはお金を受け取って行ってしまった。
とりあえずなんとかなった。
あたしは千秋くんのほうを向いた。
「千秋くん、なんであんな人にお金借りたの?」
「……食いもんなかったんだよ」
「食べ物…?」
まさか…
「千秋くんも家に帰れてないってこと…?」
「……」
千秋くんは黙り込んだ。
けど本当に家に帰れてないと思った。
千秋くんの切なそうな顔を見て…
あたしと千秋くんは近くの土手に移動した。
土手についてあたしと千秋くんは座った。
「なんで家帰れないの?」
あたしは早速千秋くんに質問をぶつけた。
高秋くんだけじゃなくて千秋くんまで帰れないなんて…
一体育島家はどうなってるの?
「家はほとんど高秋以外の年上のやつらが独占している」
「じゃあ千秋くんは?」
「俺はあの家にいても召使いみたいなもんだった」
千秋くんは歯を食いしばり拳を握る。
「いつもあいつらにコキ使わされて辛いんだよ…!」
「……」
「高秋はほんとにずるいやつだ!高校生だから家だって出て行ける!」
「……」
「俺を取り残して!!」
それは千秋くんの本音だった。
今まで高秋くん、いや兄弟みんなに言いたかったこと。
「高秋なんて卑怯な道に逃げたかっただけだ」
「千秋くん…」
「辛い思いしたくなかったから…」
「それは違う!」
「え…」
「高秋くんだってほんとは家から出て行きたくなかったんだよ!!」
「……」
ほんとは、ほんとは…
「ふたりとも辛いんだよ…」
「……」
「千秋くんもほんとは高秋くんといっしょにいたいんでしょ?」
「俺は…」
「お母さん、お父さん、兄弟みんないっしょに暮らしたいんでしょ?」
「……」
すると千秋くんの目から涙がこぼれた。
涙はどんどん流れていく。
「帰ろうよ」
「……」
「もう一度幸せだった時に帰ろう」
「……」
「みんなといっしょにさ」
あたしは千秋くんの背中を優しく撫でた。
千秋くんは体育座りになって顔を伏せた。
「行こう、お店に」
「…うん」
その声は本当の千秋くんの声に聞こえた。
高秋くんといっしょにいたいんだよね。
千秋くんは本当は家族のことが大好きなんだ。