俺も見ようと顔を向けるが、校庭に植えてある木が邪魔で何も見えない。





なんともどかしい…。







「…新任かな?」





「それにしちゃ若いだろ。」







あいつらの騒ぎようからして、多分若い女性でもきたんだろう。






教科書販売とか…?






それとも…







「先生!!!!」







え…?俺?














「あの綺麗な人誰っすか!?」





「はぁっ!?」






バカなのか、お前らは!!




そんな事大声で叫ぶんじゃない!!






第一、俺の所からじゃ見えねーってのに。






「なー先生!!聞いてる?!」





「あ?うるせーなー、卒業生とかじゃねーのか?!俺に聞くな!!」






そんな綺麗で若い女性なんて俺が知るか!!








「でも、先生の事知ってるってよー。」






「…え?」





俺が知ってる?





てかお前ら普通に会話してるんかい。






名前くらい聞いてくれよ…。















「…解った、今から下降りるから待っててもらえ。」







「はーい。」







さっきまで乗り出していた窓を閉め、鍵をかける。






教室の施錠も完璧に済ませ、あいつらが待つ下へと階段を降りた。







俺が送り出した卒業生で、あんな騒がれるほどのやつなんていたか?






それに若いって事は卒業して間もないって事だよな…。







「先生こっちこっち!!」








土門あたりまで行くと、陸上部の奴らが笑顔で俺に手をふってきた。







「あぁ、今行く…。」







こいつら絶対楽しんでやがるな。







俺の反応を早く見ようとして…








「先生!!」














今日の空は、別にいつもと変わらなかった。






少し雲が多いくらいで…。






部活をする生徒だって、いつもと変わらず一生懸命で…。








何もかもいつもと変わらなかったはずなんだ。








今の今までは…。







「…で、先生。あの人は誰なんすか?」







誰って…あれは…。






「本物だよな…?」








まるでドッキリのような反応を見せると、彼女はクスクスと笑ってから頷いた。








「久しぶり、冨田先生!!」













本当はいけないことだと解っていても、身体が勝手に動いて彼女を力強く抱きしめていた。






学校で、しかも教師が。





まずいと頭で思いながらも、生徒じゃないしいいか…という気持ちもある。






抱きしめた瞬間、周りからは騒がしいくらい声があがった。







「ちょっ、先生!!恥ずかしいっ!!」






そう言って、俺の腕の中でバタバタしながらムキになる姿が本人だと再確認させてくれた。






昔と変わらず可愛げがない。






でも、俺的にはそこが逆に可愛く感じてしまうんだが…。







「ちょっと!!聞いてるんですかっ!?」







「…麻椿、逢いたかった。」








彼女の言葉を全て無視して、更に力強く抱きしめた。












力強く抱きしめられた腕からは、先生の温もりが嫌というほど伝わってきた。






大きくて安心する手。






少し早い心臓の音。







なにもかもが先生を私に実感させてくれた。








「私も逢いたかったです…。」








そんな些細な事に涙が出そうになる。








やっと逢いにこれたよ、先生。






長い間待たせてごめんね。






それと、待っていてくれてありがとう。













先生とお別れしてから、約5年の月日が流れていた。





私は、アメリカで仕事を手伝いながら高校と大学を卒業し、今じゃ立派な社会人になってみせた。





みんなに逢えない日は苦しかったけど、今日のためにひたすら頑張ったんだ。







「もう来ないかと思ってた…」







「…来ないわけ、ないじゃないです…んっ」







まだ話してる途中なのに、先生が私にキスをした。







お別れした時とは違う強いキス。







その瞬間、私達を見ていた生徒達がさっきよりも大きい声をあげた。







恥ずかしさと嬉しさが身体中を支配する。






全身の熱が顔に集中するかのように熱くなって、ドキドキと苦しくなる。







「…ごめんなさい先生、遅くなっちゃって。」








「もういい…帰ってきてくれたから、許す。」








唇を離した先生は、そう言いながら抱きしめていた手もそっと離した。
















「ここじゃ話しにくいから…帰るぞ。」







「ふふっ、今更ですね。」






「うるさい…」








あれだけの行為をやってのけたはずの先生は、今更後悔したのか顔を真っ赤にしていた。






生徒はその反応に尚更興奮し、先生をからかいまくった。







「ふふふっ」






見てて飽きない光景だ。






あのいつも余裕をかましていた先生が追い込まれる姿というのは。







それに、この感じが上谷と先生とのやり取りを思い出させてくれて嬉しくなる。








元気かな、上谷。





それに亜季葉も。






また近いうちに逢いに行こう。














「ほら、早く乗れ。」





「はあ…」





先生に誘導されるまま車に乗り込むが、実は内心ドキドキ。





初めて乗る先生の車、しかも助手席なんて…ドキドキするに決まってる。





「なに?後ろがいい?」





「あっいや、そんな事ないです…」






「ならいいけど。」






後ろだと執事とお嬢様の関係に逆戻りだもん。





そんな事はしたくない。




あっ、でも後ろから先生の運転する姿を見るのも悪くなかったな…。