乗り込んだ車の窓ガラスには綺麗な夜の街が反射している。
そして、その景色を覗き込むように窓ガラスに顔を近づけると、キラッと何かが光った。
「あ……これか…」
先生にあの日貰ったヘアピンが夜の街の光を浴びてキラキラと輝いていたのだ。
部屋で見るのも綺麗だけど、こうするともっと綺麗だね…。
「せ…んせ…」
あの日から毎日つけていたヘアピン。
もうはずさなきゃと思いながら、今日までつけつづけていた。
はずせなかった。
先生との繋がりが無くなる気がして。
はずしたくなかった。
まだ、先生と繋がっていたくて…。
「逢いたいよ…せんせ…」
本当は離れたくない。
ずっとずっと先生と居たいよ。
「ふっ……うぅ…」
今もこんなに先生に逢いたい。
自分で選んだ道だけど、揺らぎそうになる。
先生、私頑張るね。
強い自分になったら帰ってくる。
きちんと周りの人を支えられるように、成長してくるね。
「麻椿!!」
「…父さん、母さんまで…。」
空港に着き、目的のルートへと歩いていると両親が私の方へときた。
二人揃うなんて珍しいな。
「麻椿、急にアメリカに行くなんて驚いたわよ。本当に大丈夫?」
「うん。」
「麻椿は俺達の娘だぞ?大丈夫に決まってる。」
「え……」
少し心配性の母さんと、自信に満ち溢れた父さん。
いつ見てもこの組合わせは良くできているものだ。
「身体に気をつけてね。いつでも連絡ちょうだいよ。」
「何かあったら直ぐ駆けつけるからな。」
そんな二人の唯一の共通点は、愛に溢れてる所かな…。
一緒に居る時間は少ないけど、いつも私を気にかけてくれている。
多くを求められて辛い時はあるけど、その分やりたいことは全てやらせてくれた。
大きな愛で私を育ててくれたんだよね。
「ありがとう、二人とも。私は大丈夫だから気にしないで。」
そんな二人が私は大好きだよ。
だから、そんなあなた達を守れる位強くなって帰ってくるからね。
「父さん、母さん、行ってきます。」
「…えぇ、行ってらっしゃい。」
「行っておいで。」
二人とお別れのハグをして、私は再び歩き出した。
空港って、いつきても思うんだけど広いよなぁ。
人も沢山いて、通路だってこんなに…。
いつ迷子になってもおかしくない。
飛行機のチケットを見ながら目的の入り口まで歩いてみるが、あってるか解ったもんじゃないし…。
「そちらの飛行機でしたらこちらですよ。」
そう言って、親切な方が私の肩に触れながら教えてくれた。
「そうなんですか、ありがと…う…」
親切な方の笑顔は、優しさに満ち溢れていた。
まるで、愛おしいものをみつけるかのような…。
吸い込まれそうな瞳で私を見ていた。
「見つけた、麻椿。」
「せ…んせ?」
どうしてここにいるの?
私言わなかったよね?
みんなにも黙っておいてって言ったのに。
「何で…何で先生が…」
頭の中が混乱する。
逢いたかった気持ちと我慢していた気持ちが入り混じってぐちゃぐちゃになって。
ただ涙が私の頬をつたった。
「ちゃんと俺にも麻椿の話し聞かせて?そしたら笑顔で送り出すから…。」
優しく涙を拭き取ってくれる先生の目には、うっすらと涙が光っている気がした。
「強く…なりたいん、です。」
「うん。」
「一人で頑張って、成長できたら帰ってきます…だから、あの…」
言葉を詰まらせると、下を向いて話していた私の顔を先生が上へとあげた。
目と目があって、更に先生の目に吸い込まれそうになる。
久しぶりに触れられた先生の手はとても暖かくて、もっと触れていたくなる。
「最後に…抱きしめて…いいですか?」
ゆっくりと、先生に問いかけた。
すると、先生は優しく抱きしめてくれた。
「先生…先生…」
その腕に私も必死でしがみつく。
人前とか、今はどうだっていい。
ただ先生の温もりが欲しい。
大きくて暖かい、この温もりを…。
「最後なんていうな…。」
「え?」
「待っててやるから…さっさと帰ってこい…」
耳元からは、先生の声とすすり泣く音。
私からじゃなく先生から。
「泣かないで…先生」
「うるさい…お前のせいだからな…」
そう言うと、先生は抱きしめる力を強くした。
「本当は行くなって言いたいが、麻椿が決めた事なら応援する…」
「はい…」
「でも、そうは思っても身体は離そうとしないんだよなー。」
いたずらっぽく笑ってみせる先生が可愛い。
いつもはクールなのに、本当は甘えん坊だったりするのかな?
「可愛い、先生。」
出発する前に、少しでも先生が知れて嬉しい。
それだけで笑みがこぼれる。
元気になれるよ。