その日から、僕の娼夫としての生活が始まった。
僕を犯した男は、娼館の主だった。
新入りはまず主に身体を捧げることが掟だったらしい、後で知った。
僕の容姿は、人を惹き付けるものらしく、男女問わずに人気があった。
男には娼夫として、女には男娼として対応した…。
数多くの豚共に抱かれ…数多くの豚共を抱いた。
身も心も削られていく日々…いっそせめて、狂ってしまえたら、どんなに楽だったか。
だが、死ぬよりは、死ぬよりはマシな筈、生きていたら、いつかいい事があるのではないか、そういった、子供じみた微かな願いが、僕を生かした。
そしてもう一つ。
自由のない奴隷の、唯一叶えられたささやかな願いは名前、名前なんて在ってないようなもの、意味なんてないそんなものが、地獄の日々に唯一色を付ける。
客を取る時に、名前が必要だった、だが、生まれついての“こじき”に、そんなもの等ある筈がなく、名前を新しく付けることになったんだ。
何か希望はあるかと問われ、僕は…
「あの、窓から見える鳥の名前がいい」
「燕(チェン)…か、なかなか可愛いらしい…
まぁいいだろう」
「燕………不思議な響きだ」
路地裏で暮らしていた時、あの、空を舞う鳥のようになりたいと願ったことがあった。
囚われの身になった今も、その希望は変わらず…せめて名前だけでも、と、その希望は叶えられた。
ただ、空を飛べない…籠の中の鳥だが。