「今の一打は素晴らしかった…
今度は、こちらの打をお見せしよう、ただし、一打だけな」
「なんだ、そうケチるなよ」
「安心しろ、己(オレ)の打を二打見た者はいない
一打見た後は、意識が飛んでいる」
燕はレの字の形に足を置き、膝を曲げ腰を沈め、半身――相手に対して、やや斜めになる構え方――になる。
順手――相手に近い側の手――は自然に開き手の平を地面に向け、逆手は圧拳にし地面に水平に腰元に構える。
これが、強靭な下半身がなければ構えることすらできない、八極拳独特の構え。
ビシーッ!と決まったその構えからは、燕の実力が十二分に伺えた…。
構える際、燕の長い金髪がフワリと揺れ、無駄のない構えと相まって…その姿は、まるで後光でも射しているかのごとく…、余りにも美しかった。
「教えてやろう!
八極拳は王者の拳!
貴様如き匹夫を相手に…王者は怯まない!
故に、牽制など必要ない
目指すは常に…相手の正面っ!!
中心っ!!!」
「っ!!」
八極拳独特の、活歩と呼ばれる歩法で、10の距離を一瞬で0にする。
亮の動態視力を以てしても急接近して来る燕(つばめ)の動きを、完全に捉えることはできなかった…。
「憤っ!!」
超接近し、沈み込むような動作で亮の水月に裡門頂肘――内側から打ち上げる肘打ち――を叩き込む!
亮の、100kgを越す身体が、メジャーリーガーの打ったホームランボールのように、ポーン!と、面白い位に弾け飛んだ…。