右手でステッキを前に突き出し、完璧に真半身――相手に対して横向きになる構え方、正中線が相手に見えないように構える――に構える。

左手は顎の下、相手が刃物を持っている場合は腰に回して隠すのが常套だが、相手が徒手空拳の場合、もしもの時の防御用、つまり保険として、顎の下に手を置いておくのが正しい。

「………こいつは驚いた」

怪盗ジャムの行った行為は、“構える”ただそれだけ。

だが、一朝一夕にやれる構えでないことが、百戦練磨の亮には一目でわかった。

更に、ふざけた容姿や言動とは裏腹に、この男が、鍛練に次ぐ鍛練をこなしてきたことすらをも、瞬時に理解できた。

優れた絵画は見るだけで、作者の努力を、有無を言わさず思い知らせる。

そう、優れた作品というものは一目見るだけで、そのような背景を含め、見るものを納得させる、強烈な説得力を有しているものだ。

このふざけた怪盗が取った構えには、そのような説得力があった。

「その構え、フェンシング…だったっけか?」

「幼少のみきりより、父より手ほどきを受けてきた…覚悟したまえ…マッスルガイ
初見で見切れる程、私の剣は甘くないぞ」